奮 闘 記
その1
第1回コロムビア剣詩舞コンクール九州・四国・山口地区大会
プロローグ
それは先代宗家の自宅に向けて夜に車を走らせている時でした。
突然私の携帯電話が鳴り始め、急いで路肩に車を寄せて携帯電話を開いてみると見知らぬ番号が・・・
「いったい誰からだろう?」と思いつつ電話に出てみると、いつもお世話になっている先生からでした。そして電話の内容が今度佐賀県の鳥栖市でコロムビアレコード主催の剣詩舞コンクールがあるから、先日財団コンクールの長崎大会に出ていたお弟子さんを出してみないか?というものでした。
しかしこの時点ですでに本番までが残り2ヵ月弱。 しかも財団コンクールで届かなかったことへの思いがお弟子さんや私自身の中にもまだ生々しく残っておりましたので、即答が出来ずに「保留」という形でお応えしました。
その後すぐにお弟子さんのお母様に電話して、話の内容を伝えたところ、すぐに本人が「出たい!」と言っているという返事がきました。後日改めて本人に意思確認をとると、やはりその思いは強いものでした。
ならば選択すべき道は一つです。
こうして慌ただしく「コロムビア剣詩舞コンクールへの道」は幕を開けました。
お稽古! お稽古!!
ここからはハッキリ言って戦争でした。
吟題は40近い種類の中から選べるとはいえ、正直どれもこれも叙情的であまり剣舞に向いておらず、いくつか有るものは典型的なものばかり。 これではおそらく他の流派の方たちはそのわずかにある剣舞向きの吟を選んでくるはず!と思い、あえてうちは他が選ばないような叙情的な詩「廬山の瀑布を望む」を選択しました。
しかしそれでも決まったのは吟題だけで音源がありません。
典型的な節調を基に自分なりにおよそ2分15秒から20秒前後の長さで合わせるように振りつけるしかありませんでした。 この時点で何度自分がなんてとんでもない冒険的な選択をしてしまったんだ!!と悩みました(−−
それからも若干の不眠症と殺人的な口内炎に苦しめられつつどうにか振り付けを完成させ、今度はそれをお弟子さんに教えるというよりは叩きこむためのお稽古が始まりました。 前回の財団コンクール同様に通常のお稽古に加え、学校が休みである土曜日も全て返上でお稽古に費やしました。
この時は私もかなり燃え上っていたようで、振り付けも「今度こそは負けないように!」と、かなりこだわってしまい、初めてお弟子さん本人の前で舞って見せた時に、それまで使ったこともないような新しい動くを多く加えていたので、呆気にとられてしまっていたお弟子さんの表情が印象的でした(^^
はじめは困難な道のりを予想し、はたして間に合うのか?という心配が頭から離れませんでしたが、ここからお弟子さんが驚異的な根性を見せました。
教える私も驚くほどのスピードで技を吸収し、結果的に自分のものにしてしまったのです。(でもおそらくは目に見えない部分で相当の努力をしていたと思います。)
こうしてお弟子さんに対する不安感は一気に払拭されました。
しかしそれでも別の不安感は残っておりました。 それは本番を直前に控えていても未だにその詳細が分からないということ。 第1回大会ですから仕方のないことかもしれませんが、お弟子さんが出場するクラスは幼・少年の部で、対象が幼児から中学校3年までとかなり幅広く、まだ小学5年のお弟子さんにとっては決して良い条件ではありません。 しかも年齢層どころか参加人数すらわからない状態。本当の意味でのぶっつけ本番になりました。
本番当日!
こうして迎えた本番当日。 抜けるような青空。焼けるような暑さ。 梅雨明けしたばかりの天気は最高のものでした。
会場であるサンメッセ鳥栖に着くと現地には錚々たるメンバーが揃っています。予想以上の大会でした。
とはいえここまで来て引いてる場合じゃありません。 受付や控室もよくわからないままとにかく開いていた部屋の中で一番すごしやすそうな所で着替えや化粧、昼食まで済まし、いざ開会です!
お弟子さんが出る剣舞 幼・少年の部には計4名の参加。 お弟子さん以外は何と全員中学生・・・・
それでもここまでやってきたんです! 後は全てを出し切るしかありません。
同部門では一番最後の順番だったお弟子さん。 私は観客席の中段あたりから先代の形見である腕時計を握りしめて見ておりました。 それまでが体格のいい中学生ばかりということと、小学5年とはいえ小さいほうのお弟子さん・・・ どうしても舞台袖から出てきた瞬間は体の小ささが目立ってしまいます。 しかも前奏の途中で一瞬足が滑ってしまいました。 冷やっとしましたが持ち直し、そのまま舞台中央へ・・・ 始まりです。
幾分吟よりも早めの動き・・・
「緊張しているか?」と思いましたが、すぐにきっちりと修正。 そこからはこれまでの2ヵ月のお稽古で培ったものを遺憾なく発揮!! 見事に務めあげました。
舞い終わったお弟子さんは泣いておりました。
「納得したか?」の問いにハッキリと「ハイ!」と答えてくれたお弟子さん。 私の中にも結果がどうであれ今回は悔いなし!と思えました。
歓喜の瞬間
・・・で、ここからが長い(−−
剣詩舞合わせて全体で48名の参加者。その後の会員の先生方の演武が21曲。 全てが終わるまでにおよそ4時間半の時間がかかりました。
悔いなし!とはいえ・・・ 年齢・体格でかなり不利とはいえ・・・
やはり結果が近づいてくると緊張してきます。(正確にはこの日の朝から緊張しっぱなしで、時間帯に応じて酷くなったりゆるんだりする程度でしたけど・・・)
「たとえ駄目でも・・・」「いや大丈夫なはず!」「悔いなし!」「いや勝たせたい!」・・・複雑な思いが頭の中を交差する中、いよいよ発表です。
審査委員の橘先生の声に耳をすませます。
「一番、○○さん(お弟子さん以外の名前)」
ガビ〜〜〜ン(*0*)
・・と思ったら、是は順位ではなく入賞者をプログラム順に呼んだだけでした。
いやぁ〜、命拾いしたぁ(汗)・・・
けど確実に寿命がちょっと縮んだぁ(冷や汗)・・・
結果的には、剣舞幼・少年の部の4名全員が入賞しており、最後にその4名の中から
「優勝は・・・」
「4番 細田 佳那さん!」
!(*0*)
言葉になりませんでした。 ただ胸の中で『届いた・・・』とだけ思うことで精一杯でした。
この時、縮んだ分の寿命は延びたかも・・・
お弟子さんが舞台に呼ばれ、その後ろ姿を見ている時、ちょっと(ちょっとだけですよ)泣いたかもしれません。
いや、泣いてましたね
お弟子さんにはしっかりと見られてたみたいだし(^^;
その後の発表は申し訳ありませんがあまり記憶にありません。
ただ賞状とトロフィーを手に、舞台の一番前で堂々と立っているお弟子さんの姿を目に焼き付けることに必死でした。
こうして全部門の入賞並びに成績上位者が選ばれて、ステージ上に並び終わった後、今度はこの中から12月に東京の中野サンプラザで行われる決勝大会代表者の発表です。 代表は剣詩舞全部門48名の中から3名のみという、恐ろしいくらいに狭き門です。
「ここまできたなら・・・・」と思いつつ、固唾をのみました。
・・・・
・・・・・・・
「お一人目 剣舞幼少年の部優勝の細田 佳那さん」
!?
ウォォォォ!!\(T0T)/
もう私の脳みそは限界でした。
言葉どころか思考回路もめちゃめちゃです(^^
ただ、舞台の中央で代表の文字が書かれた襷をかけて、しっかりと前を向いて立っているお弟子さんの姿が何よりも誇らしく、輝いていたことだけは覚えています。
こうして、突然始まった「第1回コロムビア剣詩舞コンクール九州・四国・山口地区大会」は舞台を変え「決勝大会」へと続くことになりました。
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