折り重ねていく研鑽・・・ 受け継がれる思い・・・

   奮 闘 記  



その3
平成22年 第27回 式見ふるさとまつり


式見町
 式見町・・・この町は先々代、先代が暮らした町で、当然私が宗家を継承するまでは当流派のお膝元であった場所。
この町で毎年秋に催されるのが「式見ふるさとまつり」であり、これまでずっと参加してまいりました。
当流派が抱える舞台の中では内容や規模は決して大きくはありませんが、その反面、私自身がそこに持つ意味はとりわけ大きいものがあります。
もちろん歴代宗家のお膝元ということはありますが、私が剣武と出会ったのが、先代宗家がこの「式見ふるさとまつり」に参加した時の映像でした。 そしてその時の感動が元で剣武を始め、私自身、そして私の弟子もみんな初舞台はここでした。
余談ですが、私が3代目宗家勝風を継承し、代表として臨んだ初舞台も同じ場所でした。
少し大げさな表現かもしれませんが、この「式見ふるさとまつり」は当流派にとって一つの登竜門のような存在なのです。

「初」に挑む者たち・・・
 そして今年、またこの舞台で「初」が生まれることになりました。
まずは舞い手の細田 愛琴さんと吉田 ひかるさんの両名。
この二人はすでに同舞台への出演経験はありましたし、他の舞台も踏んでおりますが、そのすべてが「群舞」で、剣武を習い始めて以来ほとんど単独で舞ったことがありませんでした。
そのような二人が今回挑んだのは「一人舞台」。
至極当然のように聞こえるかもしれませんが、入門以来、お稽古時も舞台の上でも常にともに歩み続けてきた2人にとってこの「一人舞台」は重くのしかかったことでしょう。
 そして詩吟部にも同じく「初」に挑む者が・・
舞い手の吉田 ひかるさんの母親である吉田 奈美枝さん、細田 愛琴の祖母である井手 早苗さんです。
吉田さんは先日の浦上くんちで舞台デビューはしておりましたが、この時は一人ではなく合吟での出演。 井手さんは全くの初舞台でいきなりの独吟。 その上、両名とも相手は自分自身の身内ですから相当のプレッシャーだったはずです。
そして詩吟部全体としても初めての試みとして全員による合吟を行うことになりました。

すべからく「舞台」というものは緊張し、力み、恐怖、重圧・・・いろいろな負の感情が入り混じって自分の中に入り込んできます。
まして、そこに「初」という頭がつくと尚更・・・

宗家である私の判断で組んだ予定とはいえ、みんなには大変な重荷にを与えました。
しかし、芸事である以上、舞台は決して避けて通れぬ道! そしてその重荷を受け止め、そこに打ち勝つことが出来てこそ、身につけたことが自分自身の「技」に昇華するものです。

日頃の研鑽・努力は決して単なる自己満足ではなく、与えられるべき正当な評価を受ける権利があるのです。
だからこそ、あえて臨んだ「挑戦」の舞台。
無茶は承知の上・・・でもみんなならば無理ではない!  そう思っておりました。

そしてもうひとつ、今回の舞台で初めてやろうと思ったこと・・・
それは私が舞台に立たないということ。

私は先代に弟子入りして以来、ずっとこの「式見ふるさとまつり」には参加してきましたが、今回に関しては代表として、そして先々代・先代になり替わりお弟子さんたちの舞台をしっかりと見届けるべきと判断したからです。


「式見ふるさとまつり」
 こうして始まった「式見ふるさとまつり」
一番手は吉田 ひかるさん、奈美枝さん親子による「白虎隊」
明らかに緊張が表れている表情(特にお母さん(^^  )
しかしいざ始まってみると2人とも実に落ち着いている! 舞いも吟もともにお稽古の時同様に安定しています。


途中若干ではありますが吟の音程が上がり、「大丈夫か?」と思いましたが、実は普段は見せた(出した?)ことが無かった高い音域を持っていた(この時判明!)吉田さんは、そのままきっちり吟じきって、ひかるさんもそれに呼応するように目立ったミスを犯すこともなく、むしろ最後は見事なまでの「決め!」で初の親子共演の舞台を締めくくりました。



続いて二番手は細田 愛琴さん、井手 早苗さんの孫・祖母コンビによる「富士山」
吟者の井手さんはまだ習い始めて日も浅かったのですが、せっかく御自分の孫と共演できる機会ですし、何より他の人が吟じている時や、舞い手がお稽古中の時も御自分で邪魔にならないような声で吟じていたりして、必死に頑張っていました。その姿を見て私の中で舞台に出そうという決意に至りました。
しかしお稽古中は苦戦され、なかなか上手くいかないこともありました。 しかしそれでもひたむきに頑張られて、直前のお稽古ではどうにか「通し」にこぎ着けました。
そうして、ほぼぶっつけ本番で始まった舞台。
緊張の中・・・吟がつながります!


あれほど苦戦した節調が滑らかにつながります!!
舞い手の愛琴さんも群舞で同じ「富士山」を舞った時よりも余裕があり、大きく舞っています。
井手さんは最後までノーミスで吟じきりました。 苦しんだ分、何物にも代えがたい成果です。



次は詩吟部全員による合吟「九月十三夜陣中の作」です。
今回井手さんが舞台デビューしたことによって叶った詩吟部の全員参加の舞台です。 ここはやはり既に独吟という責任重大な舞台を直前で乗り越えていた分、吉田さんも井手さんも入場の時から余裕があります。
他の2人、部長の崇風、私の妻である勝仙は幾度かの舞台経験もありますので問題はなさそうです。
やはり始まってみると、まだ初めてのことですので幾分かの未熟さはあるとはいえ充分な出来栄えです。特にこの4人が集まるとマイクが要らないんじゃないかと思うほど安定した声でかなりの声量を出します。 うかうかしていると剣武のほうが迫力負けしてしまいそうな勢いです。



最後は細田 祥佳による「廬山の瀑布を望む」。 彼女の全国コロムビア剣詩舞コンクール九州・四国・山口地区代表としての演目です。
ここに関しては「失敗」というより「無難」になってしまうことが気がかりで、とにかく何かしらの挑戦をやってこい!といって送り出しましたが・・・
ここはやはり彼女のこれまで重ねた研鑽の賜物でしょう。 リハーサル的なものを一切行わせなかったにもかかわらず見事に舞台を使い切りました。
もちろん最終目標の場所は今回とは全く違うものでしょうが、見通しは十二分に明るいようです。


こうして終了した今年の「式見ふるさとまつり」。
それぞれが、それぞれの形で緊張感やプレッシャーを感じ、そしてそのうえで全員が見事にそれに打ち勝ち、「初」としては立派な結果を出してくれました。
反省点や修正すべき個所・・・そういったことがあるのは当然です。 しかしそれ以上に大事なことは己が舞台という責任を最後まで全うする意志と行動力の強さです。 当流派は限られた人数ですが、今回の舞台でみんな素晴らしい「強さ」を持っていることを確信しました。  無茶かもしれない挑戦を撥ね退けた!という真実は、これから先どこまで続くかはわからない各々の芸事の道のりにおいて、最高のスタートになってくれることでしょう。

一自治会の催しである「式見ふるさとまつり」
他人から見れば普通の町の演芸会かもしれませんが、今年また更に勝風神刀流剣武術にとって大切な舞台になりました。



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