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  奮 闘 記  




その1
平成23年度財団剣詩舞コンクール 九州大会編



決意新たに・・・

コンクール長崎大会も終わり、当流派からは3名の参加者のうち1名が九州大会に進むことになった。
今まで同じ目標のもとにお稽古に励んでいたお弟子さんたちの中に、どうしようもない「差」が生まれてしまったのである。 しかし、そのことを取り繕うつもりは全くなかった。 なぜなら、優劣を争うコンクールに出る!と決めたからには、当然の如く覚悟があってしかるべきであり、その点に関してお弟子さんたちが「子供」であるという事に対する意識は持たないように心がけていたからである。 
大人であれ、子供であれ、心に宿す覚悟は同じでなければなりません。


ただ、それとは別に、これからのお稽古をどのように組み立てていくか?・・・そこに関してはやはりはっきりとさせておく必要があります。
改めてお弟子さんたち3名と話し合いの場を持つことになりました。
そこで私が提案したことは、もちろん代表である細田 愛琴さんは、より一層「日本刀」の振り付けに励んでもらう・・・しかし、細田 祥佳さん、吉田 ひかるさん両名については、一応コンクール用としてのお稽古は終わる・・しかし、よかったら先生と共に愛琴さんを鍛えてはくれないか?  つまり期間限定の指導補助をやってくれないか?というものでした。

これは決して彼女たちへの「憐み」なんかではありません。 

むしろ今回作った「日本刀」の振り付けは私よりも彼女たちのほうが圧倒的に多く舞っていますし、なによりその振り付けで舞台を経験しています。 私が伝えることが出来る技術面的なこと以上に、彼女たちだからこそ伝えることで出来るものがあるはずだからです。
しかし、この要望は一切強要はしませんでした。  

それとは別に、流派としては11月に次の舞台があるので、2人は愛琴さんに先駆けてその舞台のためのお稽古を始める!というもう一つの提案もあったからです。

どちらを選ぶ?という私からの問い・・・


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・・・・・・

沈黙・・・とは呼べない程度の刹那の時間の後に、2人からは一つの答えが出されました。

こうして、コンクール明けの最初のお稽古日には、、代表である細田 愛琴さんを頂点に、私・祥佳さん・ひかるさんによる期間限定強化チームが出来上がったのです。

正直、自分たちが出ることのできない大会のために、他の誰かを支えていくという事に、何かしらの「わだかまり」はあるでしょう。
しかし、それを押し殺し、迷うことなく愛琴さんのサポートを決意した2人・・・・
彼女たちは愛琴さんとは違った形で今回のコンクールから「学び」、そして「成長」してくれました。




お稽古!=地獄!!


 県大会の際のお稽古におけるテーマは「勝負」でしたが、九州大会に向けたお稽古は、愛琴さんにとっては「地獄」だったかもしれません。
まずは振り付けをこれまでの3人全員用から、明らかに的を絞りに絞った「完全愛琴さん用」に作り直し、当然それを覚えてもらいながら同時に私、祥佳さん、ひかるさんの3人から見張られるのです。
小学3年生の彼女には酷なこととはわかっていました。
ですが、流派の中でたった一人の代表で、しかも初出場で九州大会という未知の舞台に挑まなければいけないのです。  もちろん思い出づくりなどではなく、「勝負」として・・・
そうであるならば、やはりこのくらいのプレッシャーに飲み込まれるようでは、到底九州のつわもの達の足元にすら及ばず、むしろ打ちのめされて終るだけなのです。
心を鬼にして、愛琴さんの一挙手一投足に目を光らせ続けました。



師である私の印象として、愛琴さんは強い「意地」を持った人です。
その「意地」は必ずしもすべての面において良い方向に行くとは限りません。 しかし、私のこの不安は実に無駄なものでした。
先輩の注意・・・  同期からの指摘・・・  決して「褒められる」という事はなく、ひたすら「荒探し」をされるだけのお稽古・・・
そんな中を、彼女は実に素直に受け止めてくれたのです。
嫌な表情を表に出すことはなく(もし表情に出すことがあったら、私はとっておきの雷をお見舞いするつもりでしたが・・・)、全ての言葉に対し「はい!」という返事、そして自ら「有り難うございます」という感謝も付け加えていました。
これを「成長」と言わずして何と呼べるでしょう。
自分たちの「我」を殺し、仲間のために力を貸す祥佳さんとひかるさん、そしてその思いに応える愛琴さん・・・この繋がりがあるからこそ生まれた結果でした。

こんな素晴らしい「輪」の中で、実力が伸びないはずがありません。

それは成るべくして成ることのように、愛琴さんの技を磨きあげていきました。

こうして過酷でありながらも実に有意義な時間は瞬く間に過ぎていきました。



いざ!熊本へ

今年の九州大会は熊本市で開催されることになっていました。
東日本大震災の影響で今年に限り全国大会が中止となり、コンクールとしては各地区大会が本年の最後の舞台となります。
前日の夜にはホテルで化粧の練習および再確認も行い、やれることは全てやり尽くしました。

こうして迎えた本番当日。 

愛琴さんは剣舞幼年の部で6名出場するうちの6番目、つまりトリです。 プログラム上、幼年の部は最初にあるので、出番はあっという間に訪れました。  
舞台裏までは一緒に同行していくと、愛琴さんは昨夜までの余裕の表情とは一変、今までいくつかの舞台で私が見たことの無いような緊張感に全身を包まれていました。  
当然です!
彼女自身普段は幼さの残る小学3年・・剣舞を始めてからも3年ちょっと・・・  
ましていろんなものを背負ったうえでの初めてのコンクール・・しかも九州大会という当流派にとっても初の場所。  その両肩には理解しがたい重さが圧し掛かっているでしょう・・・
しかし、もはやここでその重さを誤魔化してあげなければいけないような程度の人間ではありません。  私は敢えて必要以上の言葉はかけず、ただその両肩を力いっぱい握りしめました。
今というこの瞬間を、彼女自身の心と体に深く刻み込むために・・・
そして訪れた細田 愛琴の出番。

・・・

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言葉での表現は陳腐です。
実に、実に見事に長崎代表として、そして勝風神刀流剣武術代表として恥じぬ舞台を務めあげてくれました。


振り付けを間違えずに舞いきること・・それはもちろんですが、それよりも私がお稽古時に言い聞かせたこと、先輩が指導してくれたこと、同期が支えてくれたこと・・・

それら全てが本当に「舞い」の至る所に垣間見ることが出来た!
長崎大会以降の全ての努力を、ここ一番で、しかも九州大会という晴れ舞台で発揮してくれた・・・
それが私は何より嬉しかった・・・



結果以上のもの

大会の進行上、午前中のうちに先に発表された審査結果は、惜しくも3位以内には入れず「入賞」でした。

正直これに似た経験は今までもあります。
しかし今回は受け止めた時の心境は違っていました。  なぜならそこには「本物」と呼べる全国レベルの高き壁が在ったからです。 それは実に見事で、まだまだ見上げなければいけないような高い位置に存在する「本物」でした。
真に高みを目指すなら、現状の中でモヤモヤとしていられない・・・そう感じさせられたのです。
この思いは出場した愛琴さん自身も理解していました。
余計な意地やプライドは顔を出さず、素直に今回の幼年の部優勝者との実力の差を認めたのです。そしてその上で、その壁を越えてみせると答えました。
己が劣るという事を認めるのは実に大きな勇気を必要とします。 この勇気を持つ事のできない者は見せかけの自尊心で自分を取り繕うか、現状のみに妥協し、必要以上に上を目指そうとしないか・・・です。
お稽古で仲間の支えを受け「心」を成長させ、舞台を通じそれを「勇気」に磨き上げた彼女・・・その手にしたものはきっと結果以上のものになったはずです。

愛琴さん、本当によく頑張りました。
今回あなたが手に入れたものは、もしかすると今の段階では 「最高のもの」だったかもしれません。
そして、それが真に「最高のもの」になる様に・・・  
あの時の経験があったからこそ、今の自分はこの高みまでこれた!と胸を張って言えるように・・・
しっかりと胸を張りなさい!


私は敢えて声を大にして言おう・・・
細田 愛琴さん、あなたは誰よりも立派な代表でした!




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