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  奮 闘 記  




その1
平成23年度 財団剣詩舞コンクール 長崎大会編


プロローグ・・・の前に
 この奮闘記を綴り始めるのは7月5日・・・今年としては初めての奮闘記。 
本来ならばもっと早い時期、例えば県大会が終わった4月末ごろに一度書くべきだったかもしれない。
しかし、そこで敢えて「書く」という行為に至らなかったのは、他でもないお弟子さんたちの成長であった・・・



そしてプロローグ


 今年のコンクールは当流派にとって昨年とはかなり質が異なるものとなっていた。
理由は簡単! 昨年出場した細田 祥佳(佳那)さんにとってはいろいろな思いを含んだ上での再挑戦の場であり、そして細田 愛琴さん・吉田 ひかるさんの両名にとっては待ちに待ったコンクール初挑戦の場であるのだから。

 そうして今年の1月からコンクールに向けたお稽古が始まりました。
吟題については、3曲ある指定吟の中から、既に私の判断で大鳥圭介 作「日本刀」を選んでおり、肝心の振り付けについては、あらかじめお弟子さんたちに断っておいたことがあった。 
それは、今回新たに「日本刀」の振り付けを作るに当たり、その難易度の基準を、年齢別に差をつけるのではなく、敢えて年長者である細田 祥佳さんのレベルに合わせる形で作る! そして年齢で劣る細田愛琴さん・吉田ひかるさんの両名にはこの姉弟子の領域に意地でも噛り付いてくるように・・・   

もし、3名の中で振り付けに対して「未熟」と判断した時は絶対に出場させない!!それがたとえ誰であろうと・・・   
というものでした。

 この私からの要求・・・きっと妹弟子両名にとっては重圧として重くのしかかったと思います。  しかし、2人は普段から、ただ単に姉弟子の背中だけを見て、その後に着いていくだけ・・・などという甘い姿勢ではなく、いつか追いつく!そして追い抜いてみせる!!という気迫すら感じさせるかのような「真剣さ」をお稽古の時に見せます。 

こうして今回は出場するクラスは違うとはいえ、同じ「優劣を争う」という場に立つのです。   「武」を重んじる私たちの流派にとって、舞台は真剣勝負の場!  ならばこそ、例えそれが困難なことになるとわかっていても、同じ条件のもとで立たせてやりたい・・・。 

そのうえで一体自分たちの力がどこまで通じるのか? それを見極めて欲しい・・

「挑む」という以上は「覚悟」が必要。 「覚悟」の無いものに「成長」は訪れない・・・・   
そう思ったからです。

 そして、この「覚悟」という点については姉弟子とて同じこと。 むしろ自分より年齢も経験も劣る妹弟子たちが、同じ条件のもとに自分を追いかけてくる・・・ 

この現実に飲み込まれてしまうようでは昨年の経験は既に意味の無いものとなり、妹弟子たちの良き目標にはなりえないからです。 
この私の考えが決して間違いではなかったということは、お稽古前にこの思いを伝えた時にすぐに確信することが出来ました。

それは話を聞いた後の3名の表情です。
  
決してこれから直面することに臆することなく、その高き壁に対してぶつかっていく決意を力強く示していました。 

この時点で私の中には当然の如く振り付けがありましたが、『きっとこれ(振り付け)はこのままでは終わらず、この子たちによってもっと進化するんだろうな・・・

きっと「流派の振り付け」として残していくことが出来るくらいに・・・』という思いがよぎりました。


お稽古!=勝負!!

 今年のお稽古におけるテーマ!それはあらゆる意味での「勝負」でした。
もちろんそれは自分自身に対してであり、そしてお弟子さんたち同士に対しても言えること。 それぞれが出場を望む以上、互いに高めあう事は出来ても、それは決して「仲良しこよし」の関係だけで出来るものではない。一歩でも上に昇ることを少しでも多く望んだものこそ結果へと繋がるのです。
この辛い現実を、お弟子さんたちはお稽古の中で精神力と、流した汗で撥ね退けようとしているように見えました。
そう思えるほどに、お稽古は大変なものでした。   


回数にどうしても限りがある以上、必然的に1回1回の密度を上げるしかありません。 結果、私の口調は今まで以上に厳しく、そして大きくなっていきました。  そんな私の罵声とも呼べる指導に・・・・誰一人欠けることなくついてきました。
本来小学生という事を考えると押しつぶしてしまいかねないお稽古に、みんな必死に歯を食いしばり、汗を流して励みました。
この根性と努力は、当初私が予想していた進行予定のスケジュールを覆し、明らかに早いスピードで進歩していってくれたのです。


最初の1カ月で、明らかにその頃の彼女たちにとっては、今までやってきたものとは比べ物にならないほどの難易度のある振り付けを覚えてしまい、次の1カ月でおおよそそれぞれの形でものにした!と言えるほど身につけていたのです。 途中で体調を崩すこともあり、必ずしもすべてのお稽古をベストの状態で出来たわけではないのに・・・ 

このころの私と詩吟部長の帰宅時ににおける車内の会話の一番最初の話題は、お弟子さんたちに対する「感心」でした。


可能性への挑戦

 本番まで残すところ約2ヵ月となったところで、私は敢えて振り付けに手を加えました。
理由はいくつかありますが、一番の要因はお弟子さんたちが私の想像よりも速いテンポで伸びていき、可能性というものに期待を抱かせたからです。 これはコンクールの結果にではなく、剣士としての彼女たちにです。
お稽古において大人と子供は区別しません。  しかし、この時ばかりは意識しました。  その記憶力・対応力・・・そしてそれらを支える、あの小さな体からは想像もつかないような心の強さに・・・決してそれは私も含め、大人ではもはや届かないほどの「無限」とも呼べる可能性を秘めているのではないか?ということにです。
芸事の本来の目的は、己が技術を磨くための弛まぬ精進、そしてひたすらに高みを目指すことです。  コンクールはあくまでささやかな通過点の一つです。
その本来の目的からいえば、やはりこの「可能性」を秘めたお弟子さんたちには「妥協」や「現状維持」ではなく、「挑戦」こそふさわしいのです。

ラスト2ヵ月となって、この思いがお弟子さんたちに届いたのか、土曜の特別稽古も自然と始まりました。  結果、比例してお稽古は厳しさを増し、費やす時間も体力・精神力も増え、そして彼女たちの「強さ」も増していきました。
最初は複雑な振り付けに悪戦苦闘だったお弟子さん達も、もはや単なる私の真似ではなく、同じ振り付けでありながらそれぞれの「色」を持ったモノに進化しつつあります。

表情に強さと自信が表れてきた人。

時間と間を絶妙に取れるようになった人。

見栄えを意識した表現が出来るようになった人。

各々に特徴があり、得意な部分があり、そして欠点があります。それでもちゃんと「振り付け」、そして「舞い」として確立させてます。  振り付けを作り、そしてそれを指導するものにとってこれほど嬉しいことはありません。  お弟子さんたちは既に私に対して全力で応えてくれたのですから。


本番当日!

こうして迎えた本番。 それぞれがそれぞれの思いを胸に、会場である「諫早文化会館」に集合しました。
初参加の細田 愛琴さん・吉田ひかるさんの両名はもちろんのこと、姉弟子の細田 祥佳さんにとってもこの会場は初めてです。


今年は詩舞から始まるとのことで、かなりの時間を待たされることになりました。

そしていよいよ剣舞の部がスタート!  
まずは幼年の部で3番目にエントリーされていた吉田 ひかるさんからです。
初めて私のもとに入門した時、ずっと涙を浮かべていた彼女が、今ではこうしてコンクールという舞台に一人で立とうとしているのです。
あの日のことが記憶の中に残る私にとって、今日この日を彼女が迎えることが出来た!・・・それがたまらなく嬉しかった。

舞いは実に良かった! むしろこれまで参加した大会など以上に、彼女が「本番」に強い!という事を強く実感させてくれた舞台でした。これは誰しも求め、しかし誰しもが得ることのできない才能です。  途中、わずかに扇の扱いで乱れがありましたが、全体としてお稽古時以上に良くまとめあげていました。


次は幼年の部5番手の細田 愛琴さんの出番。
姉弟子である細田 祥佳の後を追い入門。 それからも、目の前で素晴らしい評価を受け続ける姉の背中をずっと追い続けていた彼女が、今日は自分自身の目標、そして自分自身が作り・歩く道のために舞台に立つ!
ある意味「一人立ち」のための舞台を迎えたのです。

舞いは彼女の「良さ」を充分に発揮し、如何にも細田 愛琴さんらしい「日本刀」に仕上げていました。 お稽古時に私が指示した「自分の日本刀に仕上げなさい!」という事を忠実に守り・己のものとし、それを体現してみせた舞台でした。


次は少年の部で2番手に出場の細田 祥佳(佳那)さんです。
昨年、実に立派な一年を過ごした彼女でしたが、この長崎大会は多くの心残りがありました。 しかし、そのことは彼女の成長の糧となり、今年は少年の部最年少として改めて挑戦する舞台です。
そして、自分を追い続けた妹弟子たちに己を見せつけるべき時が訪れたのです。

舞いに関しては・・・さすがでした。
昨年のあらゆる経験を自分の技へと転換し、姉弟子として、流派の代表としていかんなく実力を発揮しました。 私の眼には少年の部で最年少でありながら、その存在を確実に証明した!・・・そう確信させるに十分なものでした。

こうして、私の振り付けた「日本刀」は三人の舞いによって完成しました。



結果、そして・・・

そしていよいよ結果発表の時。
期待と恐怖   歓喜と失望・・・  実に様々な感情が入り乱れる時・・・
自然と胸が苦しくなる瞬間・・・
結果は、細田 愛琴さんが幼年の部で2位に入り、7月に熊本で行われる九州大会への出場権を獲得しました!
姉を追いかけた彼女が、今度は自分の力で初出場ながら次のステージへの切符を勝ち取ったのです。
彼女自身は当然ながら、流派としても初の財団コンクールの九州大会出場者です。 細田 愛琴さんは「勝風神刀流剣武術」の歴史に新しい1ページを作った・・・そう言っても過言ではありません。


吉田ひかるさん、細田祥佳さんの両名は残念ながら入賞を逃しました。
しかしコンクールである以上、必ず勝者と敗者は存在する。  2人の舞台は決して他者に劣っているものではなかった。 それはあらゆる人が実際に見て感じていること・・・
2人の目には涙がありました。  その涙はきっと2人を強くする。
この涙があったからこそ、この領域までこれた!・・・きっとそう思える日が来る。
それを実現できる剣士だから。

こうして幕を閉じた長崎県大会。
私は必要以上に細田 愛琴さんを褒めませんでした。 それは、既に彼女は「長崎代表」という看板がその背にあり、共に歩んだ仲間の思いも心に宿さなければならなかったからです。
県大会を只の良い思い出にならないように・・・   彼女に更なる高みへの欲望を持ってもらうために・・・  笑顔を押し殺しました。
これが県大会後に奮闘記を綴れなかった原因です。

しかし、今なら心から賞賛出来る。  そして私はやっと県大会を振りかえり、涙を浮かべることが出来る。

愛琴さん、よくやってくれました。 
本当に、本当によくやってくれました!
あなたは今回の準優勝という結果・長崎県代表という立場・・・そして何よりも、ここまで精一杯努力してきた自分自身を誇りなさい。 そんなあなたの姿を見て、先生はまた一つ自信を以って胸を張ることが出来ます。
間違いなくあなたは「流派の新しい歴史」を一つ作ったのだから。

祥佳さん、ひかるさん・・・あなたたちには感謝しています。 
あなた達は『勝風神刀流剣武術ここにあり!』を舞台で見せつけてくれました。 それは結果とは別に、非常に大きいものです。 この経験を受け止め、己が糧にして見せなさい。 あなた達の目指すものは、決して単なる思い出づくりではないのですから。 
先生は信じています。


みんな、本当によく頑張ってくれました。  ありがとう・・・
やはりあなた達は先生の自慢であり、そして何よりの誇りです。





そして舞台は「九州大会」へと続いていくのでした。



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