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平成23年度 長崎県吟剣詩舞道祭 in大村市


夏の到来と共に・・・

 コンクール九州大会が終わり、3名の弟子には既に新たな舞台が待っていた。
その最終目標が11月に大村市で行われる「長崎県吟剣詩舞道祭」である。 
今年私たちの流派で予定されている最後の舞台。 そして、昨年病気のため直前で上がることが叶わなかった県内最大規模の舞台である。


3名とも年齢区分では幼少年に属するため、当流派に割り当てられた出番は「1」。必然的に全員参加による群舞となる。
彼女たちにとって群舞の経験そのものが無いわけではなく、既にいくつか持ち分はあるが、それらはほとんどが個々人の動きが独立したもので、敢えて群舞ではなく単体で舞台に立つ事も出来れば、広さの点で問題が無ければ無限に人数を増やすことも出来る・・・そういったものである。
まして3名はまだ発育途中の小学生・・・  群舞における「統一性」を見せるには体格にばらつきがある。 それを補うためには、他でもない稽古量によってのみ可能である。それも濃密で圧倒的な・・・
彼女たちにそれをもとめる・・・

今の私に「迷い」など微塵もありません。

やがて夏休みを迎えようとする頃、私のなかには今までにない「協調性」「統一性」そして今まで以上の技術力を必要とする振り付けがまとまりつつありました。






個々の差を埋めること

 選んだ演目は頼 山陽作「楠公子に訣るるの図に題す」
当流派の最も得意とする荒物に近く、また詩のなかで複数の登場人物を表す部分がある、そして絶句4行のなかに比喩、情景・感情表現など実に多彩な内容を含んでいるからです。
しかし、前述の通り今回最も問題になるのは「個々人の差」。
それは身体的なものであり、剣武における実力もそうである。 だが、私がそこを意識すると必然的に年長者である細田 祥佳さんが中心の振り付けになってしまうが、それでは他の両名、細田 愛琴さん・吉田 ひかるさんにとっては結果的に脇役となってしまう。 そのこと自体が決して悪いことではないにしろ、やはり一つの舞台で望まれる成長の度合いには影響がある。今回はそこに格差を生じさせたくない。
導き出された答えは・・・

『今回は中心人物を固定しない』

言い換えるならば3名共に平等に4行の詩のなかで責任を与え、常に中心(お稽古の際は「センター」と呼んでました)が入れ替わるようにする…ということです。
この形態については祥佳さんは経験がありますが、愛琴さん・ひかるさんにとっては全くの初めてのこと・・・しかも必ず何かしらの形でセンターになるわけですから他との「実力差」が見え隠れするようでは群舞として成立しません。 一人のメンバーとして存在するためには一定のレベルで先輩である祥佳さんに追いつかなくてはならず、限られた時間で今まで以上の成長が必要とされました。

そしてそれは年長者の祥佳さんとて同じこと。 実力の差の分、自分の力を抜くなどという事は当然あってはならないことで、むしろその中に如何に自分が自然に溶け込めるか・・・  体格差があっても、如何に舞台上でそれを感じさせないか・・・そこをどのように捉え、そして表現するか・・・
彼女にもまた今まで以上のものが求められました。

言葉で表現する以上に彼女たちに課せられたことは重大だったことでしょう。






全てはお稽古の中から

 それぞれの課題のもとに始まった群舞「楠公〜」の習得。
しかしやることは至って単純であり、芸事である以上他にはありえません・・・只ひたすらのお稽古あるのみです。
それを補うのが大手町教室と式見荘の両教場を使った普段からは倍以上の量のお稽古です。幸いにも夏休みの恩恵で全員が同じ時間にお稽古が出来たため、振り付けを覚えてしまうまではかなり順調に進みました。 このあたりの記憶と吸収の早さは我が弟子ながら「さすが!」と思わされます。
4行の詩をおおむね3分割とし、それぞれの場面で・・・

あるいは舞台上における基準となる中心点として・・・

あるいは物語上における主人公として・・・

またあるいは振りつけ構成上の牽引役として・・・


互いが異なった形でのセンターというポジションを持ち、一切の「差」に関係なく決して欠かすことのできない存在感と責任を持つ。 しかもそれは只、舞台上で持ち分を演じ切ればそれでよいというものではなく、自らのほんのささやかな「ズレ」が他の2名に大きな影響を及ぼしかねないという責任。
例え自分が担当する動きそのものが出来たとしても、わずかに中心を数歩外れただけで、曲の途中であっても私から止められ、そして厳しい注意を受けることになってしまいます。
 実際この振り付けを覚えるために、お稽古場には数え切れないほどの注意が飛びました。 







夏の終わりは・・・

 夏休みが終わるころ、一つの悩みが生まれました。
それは祥佳さんと愛琴さん・ひかるさんが学年が違うため、お稽古場に来れる時間に差があるのです。 これは普段のお稽古では何ら問題にはなりませんが、群舞に取り組んでいる今にとっては重大なことです。
今の3名にとっては振り付けそのものよりも、どれだけ自分たちが融合することが出来るか!か課題であり、それは個別にお稽古を行っていても養われません。
最終的には、これは私が指示したわけではなく自分たちの意志で実現したことですが、先に帰ってくる愛琴さん・ひかるさんがまず2人でお稽古をし、その後遅れてやってくる祥佳さんのお稽古の時も残ってやる・・・ということです。
2人に関しては時間的には通常の倍以上の量のお稽古。 祥佳さんにしてみれば来た時点で既に1回分のお稽古をやり、息を合わせている2人のなかにいきなり混ざる。  どちらにとっても大変なものです。
これを私から押し付けられてやるのではなく、自らの意志で行うのですから・・・
こうして当初私が抱いた不安などあっさりと払拭してくれたお弟子さんたち。 これだけの心意気を見せられると指導するほうも熱くなりますし、なによりその気持ちに応えて更なる高みへ上げてやることこそ最大の務めです。 稽古の厳しさ、私の口から容赦なく放たれる注意は日を追うごとに増えていく一方でした。

このようなお稽古のなかで、彼女たちが最も大変だったのは「無意識を殺すこと」でしょう。
人間は五感に頼って生きています。 それゆえ、どうしても無意識にその五感によってあらゆることを確認しようとしてしまう、剣武においても。 しかし、演舞中にあらゆることを視覚で確認していれば、既にこの時点で「目付」は崩れバラバラです。 体が無意識に発動しようとする五感での確認を、如何に己が心の力で押し殺し、舞台上におけるあらゆる事象を五感を超えた感覚でとらえることが出来るか!?
言葉では全てを説明できないこの曖昧な技術を知り、そして身につけ、自分のものとして表現できるか?
年齢的なことだけ考えると酷ともいえる領域を望んでいますが、私のなかで「一人の剣士」としてのみ捉えている彼女たちに必要以上の配慮など要らず、また剣武に対しひたむきに向き合う彼女たちには「過分すぎる」などという言葉は当てはまらないのです。




最後の難関?



 確実に進歩してきたお弟子さんたち。 本番も目前となって、一つの難関にぶつかりました。
それが「病気」! 
おりしも世間では「マイコプラズマ」が流行し、普段は小学生という集団生活を送る彼女たちにとってはその流行のど真ん中に居るようなもの。 にわかに体調不良が出てきました。
不意によぎる昨年のこと・・・・

病気自体がどうしようもないこととはいえ、せっかくここまで積み上げてきたものを叶うことならばベストの状態で披露させたい・・・。 お稽古ではどうにもならないこと・・ひたすら心で願うしかありませんでした。




仕上げは本番の舞台



 願いが通じたのか、それともお弟子さんたちの精神力が病気を撥ね退けたのか・・・
迎えた11月13日のみんなの顔は最高の状態でした。 

ここで私からの彼女たちへの最後の課題です。
それは初めて訪れたであろうこの会場、そして舞台について私からは一切指示を出さず、全て自分たちで立ち位置から間隔、場あたりに至るまで行うというもの。  最後に課した最大の責任です。
私は立場上、常に彼女たちの傍にいることはできず、それはむしろこれから先、更に増していくでしょう。 私の弟子である以上、この環境は変えられません。 ならば幼少年という枠は無関係に、自分たちの舞台は自分たちで作り上げて欲しいのです。 役員席に座る私の前で、彼女たちはしっかりとその責任を遂行し、私の言葉など無くとも充分な下準備を整えてみせました。

こうして始まった平成23年度長崎県吟剣詩舞道祭。
ただじっと役員席に座っているだけの私のなかでは、やはり緊張が高まってきます。 顔に出さないように押し殺そうとすればするほど余計に。
しかし、いざ始まってみると私の緊張など無意味なもので、序盤から実によくまとまっています。  あれほど苦労したタイミングも・・  腰の位置・・・ 剣の位置・・・  振る角度・・・
お稽古の時にはここまではいかなかった!と思わせるほど、見事に「楠公〜」の世界を創り上げていきます。
緊張を忘れた私は、嬉しさを噛みしめて魅入りました。





いよいよ演舞も終盤。 最後の切り込みも見事に合わせ、決め!となったところで一瞬ひかるさん足が滑った・・・・!?

!?

時間にするとコンマ何秒もない刹那の時間。 

ざわめく会場・・・

私も思わず椅子から飛び上がりそうになった時、ひかるさんが持ち直して、そして何事もなかったかのように3人揃ってしっかりと決め、そして後奏が流れるうちに綺麗に舞台からはけていきました。

一瞬の間のあと、わき起こる拍手。

文章では伝わらないでしょうが、よくぞあの位置から持ちこたえ、そして再び決めを入れたものだと感心させられるほどの状態だったひかるさん。

そしてそんな不測の事態にも一切の動揺を見せず、しっかりと舞いを完遂させた祥佳さん・愛琴さん。

振りつけ全体でも充分に賞賛に値するものを見せた彼女たちですが、最後の最後に見せたこの決めは私のなかで衝撃ともいえるもので、それを成しえた彼女たちの身体的・精神的強さが私の想像以上に成長していたことが何より嬉しく、歴々たる面々が並ぶ役員席に在って、一人若輩な私がこの時ばかりは他の誰よりも胸を張れる・・・それほどに誇らしかった。




「楠公〜」を最高の形で魅せてくれました。




祭りの後



 今年最後の舞台で、お弟子さんたちは「締めくくり」にふさわしいものとしました。
終ったあとで涙もあったようです。 しかしそれは真剣故に出るもの・・・それすらもきっとこれからの成長の糧となるでしょう。
みんな本当にお疲れ様でした。
今年の経験を更なる高みへの踏み台として、共に昇り続けましょう。




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